教会だより

No.51  2015年11月8日

11月(死者の記念の月)を迎えて

牧師 石田 透

 新聞やテレビは日本列島の北から紅葉前線がゆっくりと南下していることを伝えています。表参道の街路樹や絵画館前の銀杏並木もやがて赤や黄色に美しく彩られることでしょう。園庭の桜も例年より早く落葉しています。季節は巡り、命の営みがひと回りしていくのです。

 10月30日(金)の夕刻、青山通り界隈に思い思いに仮装した子どもたちの「トリック・オア・トリート」(お菓子をくれないといたずらしちゃうよ)という声が賑やかに広がりました。ハロウィンのお祭りです。この祭りの起源は古代ケルト民族にあり、歴史的に関係の深いイギリスやアイルランドなどのアングロ・サクソン系諸国で祝われてきました。現代ではアメリカで民間行事として定着し、近年日本にも伝わってきました。古代ケルト民族は一年の終わりを10月31日と定め、その夜を死者の祭りとしました。やがてケルトの地がキリスト教化される中、この習俗はキリスト教信仰に取りこまれていきました。現在この祭りの位置付けは、カトリック、プロテスタントでそれぞれ異なりますが、11月1日は「諸聖人の日・諸聖徒日」、2日は「死者の日・諸魂日」とされています。

 欧米の教会では11月のひと月間を、天上の友を追憶する記念の月として静かに守られてきました。それは決して祖先崇拝・聖人崇拝というのではなく、神さまが与えて下さった「聖徒の交わり」を覚え、感謝する祈りの時でもありました。日本基督教団では11月の第1主日を「聖徒の日」と定め、原宿教会でも永眠者記念礼拝・教会墓地での墓前礼拝が行われます。

 劇団「こまつ座」の演目の一つに、「イーハトーボの劇列車」という芝居があります。井上ひさし作の戯曲で、井上が敬愛する宮沢賢治の生涯を描いた伝記劇です。宮沢賢治は土を耕し、芸術に親しみ、農民と共に生きて、理想郷(イーハトーボ)を作りたいと願いましたが、37才で亡くなります。井上は賢治の作品の全てを読み込み、賢治作品に関連する登場人物やエピソード、フレーズを作中にちりばめ、その上にフィクションを挿入して伝えるべきメッセージを語ります。それは劇中、狂言回しのように登場する「赤い帽子の車掌」が最後に客席に向けて蒔く「思い残しキップ」に集約されます。人はそれぞれの思いを抱いてこの地上の生を生きていきます。完全に思いを遂げて地上の生を終えた人など一人もいません。若くして召された人も天寿を全うした人も、誰もが何かの思いを残しこの世の生を終えていきます。後に残された者はそれを受け止め、自分なりの仕方でその思いを担い生きていくのです。そのようにして人の営みは今日も明日も続いていきます。私たちもその中に生きています。

 教会の暦は10月の最終主日から、「降誕前」の季節に入りました。あとひと月でイエスさまのお誕生に備える「待降節」(アドベント)を迎えます。死者の記念から、来るべき日への畏れを持った待望へとこの11月から12月はつながっていきます。「聖徒の交わり」を与え、恵みを賜る神さまに感謝しつつ、幼な子の姿においてこの世に来られる方を迎えたいと思います。